東工大建築学専攻塚本研の活動をレポートしていきます。

2011年9月28日水曜日

家の外の都市の中の家 ゲストトーク 柳澤田実×塚本由晴

塚本研修士1年の高橋です。
現在、西新宿の東京オペラシティアートギャラリーにて、展覧会「家の外の都市(まち)の中の家」が開催中です。
今回は、その関連企画として9月4日に行われました、塚本先生と柳澤田実さんによるゲストトークについてレポートします。


ゲストトークは、南山大学人文学部キリスト教学科の准教授を勤めておられる柳澤さんのプレゼンの後、人類学者であるIngoldさんの主張を出発点に、アトリエワンのものの見方について質問と応答を行いながら、議論が進められていきました。



プレゼンテーションの内容は、

まず、福島原発からの放射能がどのように拡散しているかというスライドを紹介しながら、これまでは、人間が"生きもの" として生きていること、自分の生を構成している"流れ"に無自覚だったこと。
しかし3.11の震災以降、放射能汚染を意識することで、「風と水の流れ」という、生において大きな意味を持った事象に対して意識的にならざるを得なくなっていること。

柳澤さんは哲学分野におけるフッサールの「生活世界」、ハイデガーの「世界内存在」といった用語を引用し、「世界に開かれ住まう私たちのあり方を回復すること」が、3.11以後に突然、誰もが具体的に意識させられるようになったという認識を示しました。


次に、Tim Ingold氏の著書「Being Alive」について取り上げ、彼の思想が、世界を「生=流れ=動き=線」として捉えており、「animic ontology」をキーワードに、近代に生まれた行為主体という概念を無効化するものであること。

animic ontologyとは、直訳すれば、生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂が存在するという思想です。
動いているものは生きているものであり、全てのものは空気の流動によって動かされているという考え方は、非常にシンプルでありながら生活の中で実感出来るレベルで世界をモデル化しているという点で、力強いものでした。


そして、アトリエワンのものの見方にもアニミズムが見いだされると同時に、特に実作にはanimic ontologyを感じるということ。 

過去には、ゴッホの素描やレンブラントの絵画など、生の流れを表現しようと試みた芸術家は多くいますが、生の流れを再現し、伝達するのは難しいものです。
柳澤さんは「意識」を手放し、ただ感受出来る喜びを感じにくくなっている現代において、アトリエワンの作品は見えなくなってしまっている生の流れを「再認識」させてくれる場所をつくっているのではないかという視点を提唱されました。




その後の柳澤さんから塚本先生への質疑では、

建築の場を構成する「動き=流れ」をどう読むのかという柳澤さんの質問について、

アトリエワンの著書「空間の響き/響きの空間」で語られているカブトムシ採集の話、家に漂うほこりの話などを例に挙げて、生命は境界を超えた流れの中にいること、彼らに乗り移り、彼らのふるまいを想像することで場を読んでいくこと。
アニミズムは素朴な概念であり、言語化しても真剣に受け取られにくいが、それを形として定着し、説得力を持たせることができるのは建築の特権であるということ。


建築は生の流れを感受可能にするためのフレームであるか?アトリエワンの「空間」は、間が空っぽなイメージではなく、充填しているものたちの交通整理をしているように見える。という問いについては、 

サイバネティックス理論は、情報を場所、人、モノから引き剥がして、流通出来るようにした。と同時に情報を引き剥がされてしまった場所、人、モノが、抜け殻のように漂わせるために空間という概念を導入した。でももう一度、情報を場所、人、モノに血実化していかないと、物事がなるということの自律性が失われたままになってしまうこと。
次に、 本来建築は対象化されず、環境化することが他の芸術との決定的差異であること。
最後に、近作の「みやしたこうえん」を例に、囲い込みによって関係の絡まり合いをつくる建築に対して、多様な人やモノが干渉せずに通り過ぎていく建築の可能性を挙げ、 アトリエワンはふるまいの規範を内蔵した「いきいきとした場所」を目指して活動しているということ。


従来の意味でのアニミズムと考えられる藤森照信と石山修武の建築と比較して、アトリエワンの使用する素材の役割についてどのように考えるかという質問では、

特別な素材ではなく、まちに当たり前にある限定された素材の中で建築をつくることで、社会化されるようにしていること。
また、最近ではどんな熱がかかったか、力がかかったか、というように素材がどのようなエネルギー履歴を持って出来ているかについて関心を持っていること。その意味では旧素材に関心があること。


職住近接を例に、そこに暮らす人=ユーザーをどのように考えるかという質問について、

なぜその人が、今、ここに建物を建てたいのか、ということをよく考える。そこまで至るには相当の時間がかかっているはず。そういう設計からさかのぼっていく時間と、これからそこで暮らしていく時間の、両方が、よりよく納まる一つの枠組みを考えるのがデザインであること。
同時に、人類が今どういうところに来ているのかという問題に、その人たちの暮らしを位置づけ、問い直すことの必要性が話題に登りました。

今回のゲストトークでは、animic ontologyをテーマに、周辺環境、素材、ユーザー、時間といった観点から建築のもつ全体性について多くの話題が及び、建築が関わる領域の大きさを再認識することが出来ました。
フォルマリズムに代表される、生の流れとは切り離されたところで建築家の作品のカタチや形式が決定される理論では、個別性ばかりが重視され「見たことのない空間」が多く実現される一方で、作品が共感可能ではなくなってしまい、人々が建築から離れてしまったように思います。
「建築は意識を離れた生活のためにこそあってほしい」という柳澤さんの発言にもあったように、人々の精神活動を実生活と分離することなく、人の生活や自然、ものの動きと思想の連続について研究しておられる柳澤さんの主張は、3.11の震災以後の建築を考える上で、生の流れと建築作品のつながりを、もう一度見直すためのひとつの指針となるように感じました。





「家の外の都市の中の家」展では、10月2日まで塚本研究室で制作した45%のハウス&アトリエワンの模型が展示されています。是非ご覧ください。
以下、詳細です。
会期:7月16日(土)~10月2日(日)
休館:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。

2011年9月10日土曜日

アーキエイドサマーキャンプ展覧会

塚本研究室修士1年の河西です。
9月3日から1週間、ヨコハマトリエンナーレ「新・港村ー小さな未来都市ー」にてアーキエイドサマーキャンプの成果物を展示しています。
サマーキャンプは全国から集まる建築系研究室が牡鹿半島にある30の浜で住民にヒアリングを行い、住民とともに住みたい浜の将来像を提案するワークショップです。研究室から塚本先生、會田、袁、河西、側嶋、高橋が参加して、鮫浦湾に面する鮫浦(サメノウラ)、谷川浜(ヤガワハマ)、大谷川浜(オオヤガワハマ)、祝浜(イワイノハマ)の調査を行い、各浜の復興計画案を提案しました。また谷川浜に提案した漁業集約案は石巻市に採択され、実施に向けて計画が進行しています。自分たちで描いた計画案が復興の土台として使われていることを大変嬉しく思います。
ここでは9月3日のサマーキャンプ報告会、4日に行なわれた釜石市復興プロジェクトチーム、岩間正行さんと塚本先生の対談についてレポートします。


1.展示について

fig.塚本研究室の展示

上から浜の現状写真、リサーチマップ、復興計画案マップ、アイソメパースと手書きパースで構成しています。
ここでは谷川浜の現状と提案について紹介します。

fig.谷川浜の現状写真

津波で防波堤、船着場、漁業作業場を失い、地震で漁港が地盤沈下して船が着けられず、漁業を再開できていません。

fig.谷川浜のリサーチマップ

津波は地図の赤いラインまで到達。56世帯のうち55世帯が被災して、住民は大原町の仮設住宅や石巻のアパート等で生活しています。

fig.谷川浜のi復興計画案

漁港再整備、高台移転、漁港集約を提案。漁業集約案は前網浜・鮫浦・泊浜・谷川浜4集落の漁業機能を集約させます。

fig.サマーキャンプの活動写真

展示では浜の踏査、住民ヒアリング、図面制作の様子も見ることができます。

fig.牡鹿半島全体の模型

展示ブース内に牡鹿半島全体の模型が展示されています。私たちが担当した浜は東エリアに位置しています。模型を見ると牡鹿半島の複雑な地形がよくわかります。

fig.報告会の様子

展示初日は東洋大学藤村研究室と一緒に報告会を行いました。
サマーキャンプ生活はヒアリングで震災以前の浜での生活、津波が到達した時の記憶、復興に対する強い想いを住民の皆さんから受け取り、復興計画案を図面に手書きで描く作業が主でした。校庭に仮設住宅が建ち並ぶ旧大原小学校に宿泊させてもらい、被災された皆さんと交流できたことは復興を考える立場として良い経験になったと思います。


2.釜石市復興プロジェクトチーム参与岩間正行さんと塚本先生のディスカッション

fig.岩間正行さんと塚本先生の対談の様子

展示2日目は「被災地の漢シリーズ」という被災地で復興に向けて奮闘する漢(オトコ)と建築家が対談するイベント第一弾が開催され、釜石市復興プロジェクトチーム参与、岩間正行さんをお招きして釜石市の話をお聞きしました。岩間さんは釜石市の職員であり、定年退職の20日前に震災に遭遇。震災後いち早く復興チームを立ち上げるとともに先を見据えた支援人材の組織化などに尽力。伊東豊雄氏など建築家の力を借りながら、市民によるワークショップを積み重ね、復興計画を立ち上げています。
岩間さんのお話で印象に残ったことは、「街の再建には時間が必要で、時間をコントロールできるのが建築家である」と説明されたことで、街の歴史や今の姿、住民の希望などを吸い上げて、時間軸の中に位置づけていくのが建築家の仕事であると考え、復興の指揮官に建築家を採用したアイデアに感銘しました。塚本先生は“ふるさと“という言葉を用いて「長い時間をかけてつくられてきた街を未来へ繋げていくと考えれば、復興は大きな時間軸の中で“ふるさと“をつくっていくことである。昔この街に住んでいた人、将来ここに生まれてくる人のためにつくっていくことが大事である。」と復興の位置づけについてコメントしていました。

fig.ディスカッション会場の様子